病弱な彼女の趣味は、日記をつけるというものだった。
ごく在り来りなその趣味だったが、
彼女はその趣味に没頭していた。
何処へ行くにも、何をするにも日記と一緒。
食べたものの味から行ったところの景色まで、
全て文字だけで表す。写真や絵はひとつもなかった。
その日見た夢から考えていた事まで、
ひとつも零さずに書き記す。
記録と呼ぶには細すぎるものだった。
彼女はこの趣味を誰にも話さなかった。
常に持ち歩いているというのに、
絶対に人前では開かない。書く時も然り。
鍵をかけられ、誰にも見られなかった彼女の記憶は、
彼女がこの世から旅立った後に見つかった。
症状が少しづつ確実に悪化していく生々しい表現。
何度も死を想像し、その度に固めたであろう覚悟。
彼女を知らない人でも容易に理解出来てしまうそれは、
まさに彼女の記憶であり、彼女の一日一日だった。
彼女の日記に死に様は書かれていない。
再び閉ざされた日記の中で、彼女は生き続けている。
1/18/2024, 11:24:45 AM