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葉が落ち、冬の気配が顔を覗かせる頃。

いつも通りの散歩道だった。流石にまだ早かったかと、持ってきた手袋を上着のポケットに入れようとして取り落とした。拾い上げて落ち葉をはたき落とす。
ふと前を見れば黒い子猫がこちらを見ていた。座ってこちらをじっと見つめたかと思えば、少し進んでは振り向いてなぁと鳴く。

気がつくと後を追って歩いていた。
するすると路地を抜けて行った先に、長い石段。少し褪せた鳥居をくぐり、登りきったところでまた座ってこちらを見ていた。
少し近づけば、とうに役目を終えた賽銭箱の下に、黒猫が臥せていた。子猫が走り寄るのを見るに、親猫なのだろう。さすがに手袋では心許なかろうと、巻いていたマフラーを置いて参道を戻る。

なぁと鳴き声が一つ、もう猫はいなかった。


子猫

11/15/2024, 3:31:35 PM