YesName

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【月夜】

 「あっ、出てきた。」
 彼女はそう呟いた。僕のことなんか完全に忘れた独り言だ。

 「え、何が?」
 それでも、反応せざるを得なかった。
 これがただの独り言だって事くらい分かっている。何が彼女をそこまで夢中にしているのか、どうしても知りたかった。

 「え?…あぁ、お月様。」
 彼女は視線を逸らさず空を指さす。
 その先にはただの欠けた月、雲の隙間で淡く輝いていた。
 彼女はこんな退屈なものに見入っているらしい。


 前に月を見上げた時の事を思い出す。
 空を真剣に見つめるその横顔に見入っていた僕の視線を、誘導する彼女の人差し指。月光を反射したネイルストーン。
 その時も、彼女の瞳の中を覗くように月を見上げた。そこには丸くすら無い、ただの月だけ。

 「綺麗だ…」
 思わずそう零してしまう。ただの月なのに、特別綺麗だった。悔しいほど。

 「…そう?」
 彼女は興味無さげに返事をしてくれた。

3/8/2024, 12:51:34 PM