燈火

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【鳥のように】


今思えば、なんて意味のないことかもしれないけど。
あなたは形に残るものを嫌がっていたように思う。
何かを買うとき、悩むふりをして渋っていた。
僕は鈍くて、舞い上がっていたから気づけなかった。

たまに手に持って眺めていたのはなぜだろう。
もしかして、どうしたら手放せるか考えていたのか。
僕に気づかれたら面倒だと思っていたのかもしれない。
想像に過ぎないけれど、外れていると嬉しい。

あなたはすべてを置いていってしまった。
揃いのマグカップも、僕からの贈り物もすべて。
あなたは何一つ持っていかなかった。
まるで夢だったかのように、あなたの存在だけがない。

しょせん偽りの生活であることはわかっていた。
でも確かめれば終わると察していて、沈黙を貫く。
その隠し事の内容を、僕はまだ知らない。
きっとこの先も知ることはないし、確かめるすべもない。

知らないとは思うけど、僕は物の場所をよく覚えている。
あなたの温もりが消えた日、朝から家中を探し回った。
あなたの物も無ければ良かったのに、すべて残っていた。
どうして持っていってくれないのか。恨み言も届かない。

写真は撮らせてもらえなかったから、そもそも無い。
個人情報の記載されたものも無くなっている。
別れの言葉も書き置きも無く、合鍵が机に置かれていた。
終わってしまったのだ、と僕は呆然として実感した。

どうせ終わる夢なら聞いておけばよかった。
キーホルダーの外された合鍵を手に、後悔の念を抱く。
飛び去ったあなたが戻ってくることはないかもしれない。
だけど、せめて忘れないように。僕は鍵を壁にかけた。

8/22/2023, 6:41:47 AM