何処かの白玉。

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【半透明の君。】

※東日本大震災の描写があります。

「おかしいじゃん、何で先にいくの。」
僕は君の半透明の手を掴もうとした。
そしたらするっと避けられた。
__いや、すり抜けたの方が正しいのか?
君はふはっ、と笑って
「さぁね?」
といつもの意地悪な笑みを見せた。
「ねぇ、っ…てば、」
「もー、なぁに?」
「いかないでって、」
「それ…は、さ?」
しょうがないことじゃん、と君は言った。
「俺が見えてること自体が奇跡なんだから。」
「…そう、か、」
君は本当は死んでいる。
あの日の地震で。
かつて見た事がないような大きな津波と地震。
当時合わせて2万人を超える死者と行方不明者。
そう、東日本大震災だ。
その時はお互い小学生で、帰りのホームルームをしていた。その時だった。
ガタガタと大きな揺れが始まり、3分もの時間揺れ続けた。中には教室の備品などの下敷きになった人も居たが、血だらけで見ることはできなかった。
何とか屋上へ逃げた。高い高いところへ。
黒い水の塊が街を飲み込んだ。みんなで何日も泣いた。辛かった。ただただ辛かった。

その時に僕らの両親も行方不明になったり、亡くなった人も居た。僕も君もそのうちの一人だ。

「はーぁ…辛い…」
「そっか、俺が死んでから14年か?」
「そっか…僕と同い年だから…23歳?」
「うん、」
「…また、来年会える?」
「追悼と黙祷、お墓参りしてくれたらね?」
「っはは、分かったよ。」
「じゃあね、また来年。」
そう言って、半透明だった君は透明になって空へ消えていった。

3/13/2025, 11:54:45 AM