「二人だけの秘密」――本来なら甘美な響きを持つ言葉だ。そこには互いを守り合う信頼や、どこか共犯めいた親密さが漂う。だが、それを血生臭い逃走劇の最中に持ち出すなら、それはただの質の悪い冗談でしかなかった。
「……ってことで、これは二人だけの秘密な?」
背後から迫る追っ手の足音をBGMに、片方が軽薄な笑みを浮かべて囁く。見てはいけない組織の裏側を目撃してしまった直後だというのに、その男の口調には緊張感のかけらもなかった。
「ふざけるな!」
もう一人が、肺を焼くような荒い息を吐きながら怒鳴り返す。
「秘密もクソもあるか! 捕まれば俺たちは二人まとめて消され、海の藻屑だ。ロマンチックな心中ごっこに付き合う暇はない!」
二人は路地の分岐点で、弾かれたように別々の方向へ走り出した。泥縄式の逃走、名も知らぬ者同士の即席の共犯関係。生き延びる保証などどこにもない。
これが今生の別れだと、この時は互いに確信していた。
数年後、銃口を向け合う再会の日が来ることなど、知る由もなかった。
5/4/2026, 5:10:26 AM