安達 リョウ

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月に願いを(約束の場所)


「何度見ても、すっごく綺麗」
「だろー?」

二人でどこまでも広大な原っぱに寝転がり、空を見る。
大気が極限まで澄んでいるのだろう、星々の煌めきは都会の比ではなく、月は黄金に光り辺りを優しく照らしていた。

「高校の部活の合宿で来た時に忘れられなくてさ。ここでずっと空見ながらダチと喋り倒してた、いい思い出の場所」
「ああ、それで。旅行先にこの宿をやたら推すから、何かあるのかとは思ってたけど」

胸一杯に空気を吸い込んで、ゆっくりと吐いてみる。
―――自分が暮らす周りのそれとは、全く異なる新鮮さ。

「初旅行にこんないい所に連れてきてもらってありがとう」
「はは、そりゃどーも。俺の株上がったな」
自慢気に気取る彼に、隣の彼女からもふふ、と笑みが漏れる。

「おまけにこの満月でしょ、ほんと素敵。お願い事したくなっちゃう」
「願い事は流れ星だろ?」
「だよね。でもうちの親、満月の夜に空の財布を振るとお金持ちになれにるって、一心不乱に振ってる」
「あっはは。似たもの親子だな」
やめて、一緒にしないでとお互い散々笑い合った後。

「じゃあ俺もひとつ願い事してみるかな」

―――不意に起き上がると、彼は甲斐甲斐しく両手を胸の前で組んで目を閉じた。
「なになに、何のお願い事?」

「神様仏様、お月様。俺の渾身のプロポーズがどうか成功しますように」
「えっ」

風が二人の間を吹き抜ける。
月明かりに照らされて、星々が見守る中彼が口を開く―――。

“幸せにおなり”

―――遠く離れた空の上から放たれる祝福の光が、新たに道を刻む二人の上に降り注いでいた。


END.

5/27/2024, 12:12:56 AM