海月

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朝、窓を開けて空気を入れ替える。
新しい空気はまだ少し冷たくて、それが心地よい。
鼻腔いっぱいのみずみずしい香り。
庭のムスカリが風になびくしゃらしゃらという音。
遠くの線路沿いに見える鮮やかな菜の花。
そういう、今だけしか味わえないものが好きだ。
まだ先生は夢の中にいるようで、
差し込んだ陽光が
その頬にまだらの模様をつくっている。
その寝顔は私より干支一回り以上も
年上の人のものだと思えないほどに幼い。
なんて幸せそうに眠るのだろう、このいとしい人は。

そう思ったところで、すとんと気づいてしまう。
これはただの願望で、現実ではないことに。
ああでもそうだ、この間やっと美大を卒業して、
先生のいるこのまちに帰ってきて。
ついに昨日、先生と久しぶりにご飯に行ったんだっけ。
こんな幸せな夢、覚めないでよ。
でももし、
こんなふうな未来が待っているとしたら。
全然悪くない。
むしろ楽しみで仕方ない。

気づくとそこは寝室で、
時計は午前7時すぎをさしていた。
おもむろに伸びをし、おおきく深呼吸をする。
窓はまだ開けていないのに
鼻腔に春の香りが満ちて、
ほんのちょっとだけ、若葉の苦い香りがした。

3/21/2023, 7:53:20 AM