【窓越しに見えるのは】
雪がシンシンと降り積もる真冬の夜。
ボロボロの布切れを纏った少年は街を彷徨っていた。
クリスマス・イブということもあり、街は特別キラキラとしていた。
そんな光景など眼中にない少年は風通りの悪い路地裏に座り込むと、懐から寒さでガチガチに凍ってしまったパンを取り出し、弱々しく齧りつく。
パンは表面がほんの少しずつ削れる程度。
少年は食べることを諦めてパンを再度懐に仕舞い、少しでも暖を取ろうと身体を丸めた。
…どれぐらい経っただろうか。
何処からか「わははは」と楽しそうな声が聞こえた。
声がする方向を見ると先程まではなかった、光が漏れている窓。
少年はグッと残り少ない体力を振り絞り、窓の側まで近寄った。
窓越しに見えるのは暖炉の火がパチパチと鳴る部屋で豪華な食事を囲む仲良さげな3人家族の姿。
「いいなぁ…」と呟いた少年は静かに座り、俯いた。
少年は数日前、たった1人の家族を失ったばかりだった。
家族であった老人は少年が出掛けている間に周辺を騒がせていた強盗犯と鉢合わせしてしまい、刺された。
少年が帰って来た時には老人は虫の息。
「遠くへ逃げなさい」と告げてそのまま息を引き取った。
怖くなった少年は僅かな銀貨とパンを持って真冬の空の下を駆けた。
そして、やっとの思いでこの街に辿り着いたのだ。
少年は窓の側で部屋からの僅かな暖を取りながら目を瞑った。
もうどうでもいいや、と…。
暫くして少年が目を覚ますと見知らぬベッドの上だった。
困惑しているとガチャッと扉が開き、入ってきたのは窓越しに見えていた3人家族の内の1人。自分と同い年ぐらいの少女だった。
「あ、気がついた?」と少女は優しく微笑みかけ、大声で父親と母親を呼んだ。
するとバタバタと慌てたような足音が近づき、優しそうな顔の夫婦が現れた。
夫婦は少女が家の側に少年が倒れているのを見つけて介抱していたのだと伝え、少年に何処から来たのか、そして何故倒れていたのかを聞いた。
少年は少し迷ったが、正直に今までのことを全て話した。
3人は静かに少年の話を聞いていた。
やがて父親が「なら、今日からウチの子になればいい。まぁ最低限は働いては貰うが…」と言った。
少年は何か裏があるのではと疑ったが、父親は「男手が欲しかっただけだ」と少年の疑いの言葉を払い、母親も少女も歓迎ムードだった。
少年は泣きながら父親の手を取り、「これからよろしくお願いします」と言った。
少年へのクリスマスプレゼント。
彼は新しい家族を、幸せを手に入れたのだった。
7/1/2024, 8:38:40 PM