300字小説
笑顔の仕事
うちのピエロはサーカスで一番の人気者だ。おどけた動作でキレの良いとんぼ返りをうち、ふざけながら詩を吟ずる。子供から老人まで彼を見て笑わない人はいない。
うちのピエロは早起きだ。皆が目覚める前には化粧を終えて、稽古をしている。誰一人として素顔を見た者は無かった。
ある朝、夜明け前にふと目が覚めた俺は明かりの漏れたテントを覗き込んだ。そこにいたのは今まさにピエロの化粧をしようとしている男。
「将軍!」
北への遠征の戦場で敵を打ち破り、いくつもの殊勲を立てた高名な将軍だ。
「……どうして、貴方のような方がピエロに……」
「笑って貰える仕事以外したくなくなったんだよ」
真っ赤に塗った唇で笑み、彼は人差し指を置いた。
お題「スマイル」
2/8/2024, 12:06:11 PM