織川ゑトウ

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『flower contrary (フラワーコントレイリィ)』

今日の日本は騒がしい。
街のどよめきが心臓にまで響いてくる。

「ねぇ~これ見た?」
「見た見た!!マジカッコいいよね~」

はぁ~と乙女なため息を吐き僕の前を通り過ぎて行く女子高生達。

「……ぁ」

通り過ぎていったかと思えば、ハンカチを落としてしまったみたいだ。
正直渡してもなんにもならないとは思ったけれども、
綺麗に洗っているあたり、相当大切なものなのだろう。
さすがに僕にも良心は在るため、重い鉛のような足を小さく動かし追いかけた。

「ぁ、あっ、ぁ、あの!!」
「~で、それがね~」
「あ、あの……」
「え!?マジウケるんですけど~」
「……」

あぁ、駄目だ。やっぱり僕の声は彼女達には届かない。
でも、このハンカチは大切そうだし……

「あ、あの」
「~で、、ん?誰?」
「こここっ、これ、落とし、まし、たよ……」
「あーハンカチね。はい」

申し訳程度に掲げたハンカチを、彼女は、いとも簡単にひょいと奪っていった。

「あーハンカチ少し汚れてんじゃん……マジ気分下がったわ」
「えーそれ彼氏からのプレゼントじゃん?さっきの奴が触れたから汚れたんじゃね?w」
「はぁ?マジないわ。あーあ、拾ってくれたのがアイドルの秀くんだったらな~」

快活に談笑し足早に遠ざかっていく彼女達からは、
悪意たっぷり地雷全踏みソースがけの胃にズシンとくるチーズバーガーを食らった。
全然デリシャスでもないし、スマイルなのは買った僕ではなく売ってきた彼女らだ。

「はぁ…やっぱり軽蔑されるんだな」

残念ながら、僕は今ちょっぴり話題の紳士系アイドルの秀とは似ても似つかない。
彼のように顔がよくて誠実ならば好かれただろうか。
そうさっきの光景を思い出すが、そんなことをしても無駄だと僕の心は語ってる。
しかし夢は見てしまうもので、ぴとぴとと顔を触る。
今日の朝、寝坊して帰りの今でも直っていない髪、いまだに半開きの三白眼、極めつけに夜更かししてできたクマだ

「というか、一応秀とは双子なんだけどなぁ」

花瀬秀(はなせしゅう)・花瀬証(はなせしょう)
一方は最近話題沸騰中のアイドル。一方は知り合いさえも乏しい青年。
二人は二卵性双子のため、顔も性格も一切似ていない。
言うことすること全て真逆だ。

秀が学業に秀ているならば、僕は学業には秀でてないし。
秀が誠実な性格をしているならば、僕はひねくれ者だ。

なんなら母が、こんな僕と秀との血縁関係がSNSにバレたらどうたらこうたらで兄弟は居ないと言っているらしい。

流石にそれはないだろうと思い、「花瀬秀 兄弟」で調べたが出てこなかった。昔から秀しか見ていない母にはもう微塵も愛なんて感じていなかったが、この時だけはへこんだ

「はぁ、もういいやさっさと家入ろ…」

ガチャ

「あ、兄さん。お帰りなさい」
「秀もう帰ってたんだ。なんか早くない?」
「今日はテストで学校が午前までだったんだよ」
「あーなるほどね。お疲れ様」
「兄さんもね」

母親からあんなに態度を変えられると兄弟仲が悪くなるのが一般だが、僕は秀に対してさほど恨みを持っていないため大分仲は良好だった。因みに言うと僕が兄、秀が弟だ。
まぁ、さほど生まれに差はないんだけど。

「兄さんはまた配信?」
「うん。新衣装お披露目」
「今回のはツインテールにしてみたよ。しかも布面積小さめ」
「わ~結構過激だね。後でお祝い赤スパ投げとくね」
「いつもありがと」
「どういたしまして」
「間違えてTwitter(X)の本垢でシェアとか感想呟かないでね」
「しないよ笑そこらへんは徹底してるからね」
「流石僕のTO(トップオタ)」

まぁ、秀がこんなオタクやってるなんてバレてもそれはそれで面白いしいいんだけど。
誰も思わないだろうなぁ。秀が過激系Vチューバーに赤スパを送り続けるTOだとは。

ガチャ

二階に上がり、僕はいつもの服に着替える。

「んっんんっ……あーぁーあー…こんなもんかな」

いつもの妖艶なロリ系ボイスに喉を入れ換える。

__「さってと僕も行こうかな」

一階では秀がラジオのスタジオに行く準備を。
二階では証が二次元の世界に入国する準備を。

_「はーい♡みんなぁ~こんばんわぁ。可愛さのちょうてん!しょうとちゃんだよ~」

_「はい。皆さん、こんばんは。貴方のお側にいつでもどこでも。秀です」

後に世界を熱狂させる最強双子、花瀬兄弟のシンデレラよりもシンデレラなストーリー''の''まだまだ序盤のお話しである。

9/9/2023, 4:21:27 PM