言葉にならない、物、者、藻の、英単語としての「mono-」。色々あるとは思います。
あるいは「言葉に『なら』、無いもの」とお題を区切るならば、たとえば言葉には無いけれど別の媒体としてなら存在するものとか……
と、いうハナシは遠くにでも置いといて、今回のおはなしのはじまり、はじまり。
最近最近、都内某所のおはなしです。
前回投稿分が続くおはなしです。
某アパートの一室の、主の名前を藤森といいまして、風吹き花咲く雪国の出身。
つい先日まで、近所の稲荷神社に住まう稲荷子狐と一緒に、故郷の雪国に帰省しておったところ。
東京に戻ってきて数日、実家からトウモロコシとスイカがクール便で、どっさり届きました。
子狐の神社におすそ分けしたところ、子狐コンコン、どっちもたいそう気に入りまして。
雪国の夏の寒暖差を一身に受けた赤や黄色を、
しゃくしゃく、むしゃむしゃ、ちゃむちゃむ!
一気に全部、胃袋に収容してしまいました。
そのときの子狐の極上な幸福といったら。
まさしくお題どおり、「言葉にならないもの」。
ドチャクソに狐尻尾をぶん回し、
バチクソに耳をペッタン倒し、
ギャッギャーギャッ、くぁーくぁーく!!
言葉レスな興奮を、言葉にならないものを、体全体でもって表現しておったのです。
狐は肉食寄りの雑食。野生は畑の、茹でても焼いてもいないトウモロコシをむしゃむしゃ食べます!
そんなトウモロコシを藤森が、焼いたのと茹でたのと、どっちも持ってきたのだから、
それはそれは、もう、それは。
言葉にならぬのです。
で、子狐のお母さんとお父さんにもトウモロコシとスイカをおすそ分けして、
稲荷狐のお母さんから狐の御札とお茶を貰い、
稲荷狐のお父さんから狐の粉薬と薬菓子を貰って、
とことこ、自分のアパートに戻ってきて、
ガチャリ、一人暮らしの部屋のドアを開けて――
「……ん?」
――「何か」2匹のモフモフと目が合ったので、
ぱたん、静かに、早急に、ドアを閉めました。
「え、 ……んん??」
何だろう。
自分は、「何」と目が合ったのだろう。
藤森はとっても混乱していましたが、
ひとまず、状況を整理することにしました。
「何か」居ました。それはモフモフでした。
2匹居たどちらもモフモフで、
1匹は小さく、1匹は大きく見えました。
小さい方は稲荷神社の子狐に見えました。
じゃあ大きい方は?
「ねこ? いや、 ドラゴン?」
そうです。前回投稿分でミカンとスイカとカゴと縄を燃やして光の尾にしてしまったネコゴンです。
が、そんなこと、もちろん藤森は知りません。
「見間違いか?」
一度、小さく、ゆっくりドアを開けてみます。
隙間から自分の部屋を、確認してみます。
「……子狐しか居ない」
藤森に見えたのは子狐だけ。
モフモフネコゴンは消えておりました。
「なんだったんだ。いったい」
パタン、再度閉めて、大きなため息を吐いて、
心を落ち着けてから再度ドアを開けて――
「いる」
――やっぱり「何か」2匹のモフモフと目が合い、
ぱたん、やっぱり、静かにドアを閉めました。
「なんだ、アレは。 『何』だアレは」
まるで、観測するたびに結果が変わる、
いや、観測するまで居るか居ないか分からない、
リアルシュレディンガーのネコだ。
藤森は「言葉にならないもの」を感じました。
恐怖とは、ちょっと違います。
でも、怖さはちょっと、ある気がします。
確実に混乱しています。
それらをごっちゃごちゃに混ぜて固めて、目の前にドンと置いたようなその感情を、
藤森は、何と言うのか分かりません。
「疲れてるんだ。疲れているだけだ。そうだ」
3、2、1で突入だぞ、良いな藤森、いくぞ。
決心した藤森は再度ドアを、パンと開けて、
そして、今度は「子狐と大きなドラゴンネコ」ではなく、「子狐と人間」を見つけましたとさ。
おしまい、おしまい。
8/14/2025, 9:09:17 AM