0からの
「待ちなさい」
「待て」
馴染みのある声に思わず振り返る
視線の少し上には外套に眼鏡をかけた男性がいた
両腕を組む、馴染みのあるポーズですぐに分かる
先生だ
「お久しぶりです…師匠」
「久しいね」
貼り付けた笑顔で笑うこの人は
少しほど前、私の通っていた寺子屋の師匠だ
貧乏を言い訳にし、性根がひん曲がりきっていた私を叩き直して学という教養を身に付けてくださった人
本当に、この人には頭が上がらない
あの頃は何もかもが羨ましいとつけ上がり、自惚れていた
でも今は_________
「先生も…お変わりありませんでしたか?」
「おかげさまでね」
「今も寺子屋を?」
「えぇ、変わらずやっているよ。だが……ふらりと放浪する者もいるから、君のような生徒をみると安心するね」
「そう、ですか。でも、私も先生の元気な姿を見れて安心しました」
「商業は今も順調かな。私は……」
続きを言おうとしたとき、口を止めた
「先生……?」
「妻が亡くなってしまってね」
「そんな……」
何が元気な姿を見れて安心する、だ
失言をした数分前の自分を殴りたくなる
「申し訳ございません…そんなことだとは知らず……」
懐から懐中時計を取り出し、目を伏せ時刻を確認する
「お会いできて、嬉しかったです。では___」
時間が押しているのかとそう思い、話を切り上げたのだが
2/21/2024, 11:15:28 AM