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その日、小学生だった僕は居残りでドリルをさせられていた。

平成初期は未だ、昭和の風土が残っており現在のようにコンプラなどの意識は皆無だった。

ちょうど今くらいの、11月にもならない10月の終わり、夕日が差し込む教室で、僕は一人「早く帰りたい」と焦っていた。

ドリルを終わらせ、誰も居ない廊下を走り職員室へ向かう。長い廊下は暗く何処までも続くかのように見えた。

先生に確認してもらい、急いで家路を急ぐ。

夕日が沈みかけて、自分自身の影が長く伸びており、その自分の影を追うように運動場を走る。

校庭の出入り口を目指していると、その時、ふっと自分の影の横にもう一つ影が現れ二つ並んだ。

えっ、と思い立ち止まり振り返る。

誰もいない。

ただただ寂しい校舎が、ぼーっと立っていた。

僕は恐ろしくなり、全身の毛を逆立てながら、文字通り一目散に走った。

息を切らして自宅にたどり着く。

仕事帰りの母と玄関で、ちょうど居合わせた。

叱られると覚悟したが、母は「あれ?誰かと一緒じゃなかった?走ってる姿が二人居たように見えたんだけど」と呟いた。

僕はまたもや全身の毛を総毛立たせ、泣きべそをかきながら母にすがりついた。

その後、おばあちゃんが教えてくれたことがある。

夕刻の黄昏れ(たそがれ)時の語源は「たそかれ」と言い、薄暗くて人の見分けがつきにくい時刻のことで、「誰(た)そ彼(かれ) 、あれは誰? の意味だということを。

題;放課後

10/12/2024, 5:50:14 PM