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それでいい




そのままでいいんだ。
そのままがいいんだ。

必死に背伸びをして居る背中に胸が痛む。

家族を奪われ、国を追われ、罪なき罪を被せられて何もかもを失った憎しみを忘れた日などない。
あの日、必ず根絶やしにすると誓った筈の血を現す赤い髪を持つ子供はいまや自分を支える礎と言ってすらいい。

世話係を押し付けられた長い月日は
いつしか憎しみを超えた愛しさで塗り替えられていた。それくらいには側にいるのが当たり前だった。

お前は俺の親友だよ。
たった一人の家族だ。
そばにいる事が一番だと思っていた。
なんせ赤ん坊から育てたようなものだった。
親心とすら言っていいと思っている。
そんな日々がずっと続くと信じていた。


そんな夢想がガラリと雰囲気が変える。
あの日の抱えきれない罪は、平凡だったぬるま湯をあっという間に煉獄に変えた。

大きな身体に幼さを宿した子供は
いつからか呪いのように『変わる』という単語を口にする。朝焼けの美しい赤を宿した髪を切り、常に追われるかの様にその身を何かに差し出す。

怯えるかの様に変わりたい、変わるんだと口にする姿と、それをただ見守るだけの少女に対して場違いな怒りすら覚える。
変わるというのは何に対してだ。

擦り減ることをやめない子供は摩耗していく自身の姿を見ようとすらしない。
一番の側にいる、それが支えになると信じていた。


『俺がアッシュの代わりに消えるよ』

悲しむ事すらせずにやっと見つけたと言わんばかりに声を上げる背中を見てやっと気づいた。
側にいるだけでは届かないという事に。おそらく、それに気がつくのは遅すぎたんだと思う。

変わるという事が、悪い方になるという事が
当たり前にあるということを。

おそらく変わらないといけないのは俺だった。
側にいるだけではダメだったのだと、悟った時には誰の声すら届かない場所にお前は居たのだろう。

変わらなくていい。
そのままでいい。
側に入れさえすれば良かった。

でも誰もが知っている。
誰か犠牲にならないと滅ぶ。
誰かの犠牲の上でしかない。
もうそれ以外の方法がないということを。

必死に悲痛な叫び声を上げて手を伸ばす体を
全身で押さえつける。
耳をつんざくその悲鳴は自分の心が上げた叫びそのものだった。

『馬鹿野郎が…』

天を裂く程の光に当たりが照らされた中で
振り返る赤い髪の少年の目が
それでいいんだ、と微笑んだ




4/4/2026, 11:59:53 AM