【さよならを言う前に】
ぽんっと背中に何かが当たった感覚
悪意なんか全く感じさせないそれは
場所やシチュエーションが違えば頼もしい応援にでも
心強い相棒の背中にでもなりそうな
でもここは違う
今まさに階段を降りていた僕には
それはあと1歩踏み出せなかったお別れの一押しとなった
何十回何百回と夢で知った浮遊感
最後に人間の顔など見たくもないが
ずっと足踏みしていた背を押してくれたのだ
お礼くらい言わないとと空中で身を翻して
「ありがとう」と一言
身体を回転させてしまったのだから
嫌でも相手の顔を見てしまうだろうと
少しの覚悟と共に言葉を発して視線を上げる
だけどそこにはもう誰の姿も無かった
落ちて身体を叩きつけようとしている僕なんて
誰の視界にも入らないようだ
いつものことだ
僕はすぅーっと息を吐いて
さよならを言う前に
最後の希望の歌をきみへ
2024-08-20
8/20/2024, 1:41:18 PM