無音

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【61,お題:通り雨】

急に降りだした雨に舌打ちをして、顔に傷のある少年は雨宿りできる場所を探し走った
少年、と言ったがこれは皆がそう呼ぶからであり。当の本人は正直気に入っていない

早く大人になりたい、呪文のように毎日思いながら暮らしているのである

「...チッ、もうここしかねぇな」

どしゃ降りの中を野良犬のように走り回り
あちこちに泥を付けて、ようやく見つけたのは公園の東屋

この場所は周りが住宅街で、人の目もあるのであまり選びたくはなかったが
このまま走り続け身体を冷やすよりはいいだろうと判断した

東屋に入ると、おやどうやら先客が居たようだ

キジトラ柄のやけに身体のデカいどら猫、彼はタヌキと見間違えそうなほど大きな身体を揺すり
徐にこちらを振り返った、その顔には他の猫にやられたであろう古傷がところ狭しと並んでいる

うぉーう...に”あ”ぁあぁ

低く唸り声をあげながらこっちを睨んでくる

「お前、1人か...」

シャアアアッ!

「...そうか」

東屋の端と端、お互いに言葉を交わすことはないが
自分以外の誰かが側に居る、という事がほんの少し心地よかった

「...雨止んだな」

...ぅなーお

濡れたアスファルトの不思議な匂い
曇天の隙間から覗く光の帯は、いつもよりずっと美しかった

9/27/2023, 2:51:36 PM