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 誰もがみんな、明日を望んでないじゃない。

切り崩されている最中の小高い丘に並ぶ二つの家。ベランダで流星群を待っていた二人は、願い事について話していた。名前も年齢も知らない、ただたまに顔を合わせれば世間話をする程度の間柄。真夜中に星を見るというだけのことで、随分と踏み込んでしまったものだと互いに思っていた。それでももしこの願いが叶うなら、この世界で唯一人、秘密を共有し合った人になる。願いと自棄の混ざった茶化しきれない調子で女は言う。
 生きているから生きることを続けているだけで、終わるって分かってたらこんな生活さっさと辞めちゃおうって思っています。人付き合いも世間体も放り出して、明日がない安心感にのんびりしたい。
男が視線を空から彼女に移す。驚きも憐れみも呆れもない、ただ話を聞く人特有の無表情。
 だから、世界の終わりを望むのですか。
 ええ。
男はゆっくりと視線を空に戻した。ベランダの手摺の上で手を組み、少し冷えた指を擦り合わせる。否定するのは容易く、同調するのはあまりにも滑稽だと分かっていた。女の人生の重さを気の毒に思う。そして、自分がその「誰もが皆望む終わり」を願ったことがないことに感謝した。今にも泣きそうな顔で夜空に縋り付き流星を待つ隣の女に、男はそっと返した。
 流星群、見られるといいですね。

2/10/2024, 11:28:36 PM