遠い日の記憶
ベッドに腰掛け、生まれたばかりの妹を抱く母。
そんな母を囲む父と祖父母と、当時2歳の私。
祖父母がぬいぐるみを二つ持ってきて、私にどっちがいいか尋ねた。私は両方と答えた。今までの私にどちらか一つを選ぶという選択肢はなかった。だって与えられるものは全てもらえると思っていたから。一つは妹にあげるのよ、と周りが困ったように、だけど微笑ましく笑っていた。
この話は、両親に一番古い記憶はどれか聞かれたときに答えた話だ。
本当に古い記憶は別にある。
それは妹が生まれる前のある日の夜。泊まりにきていた祖母に、寂しいと泣きついていた記憶だ。妹が生まれるにあたって母は入院した。父は仕事が忙しく、二歳児が起きている時間にはまず帰って来ないよう人だった。
パパもママもいない理由がよく分かっておらず、いつ会えるのかも分からない。果てのない寂しさで泣くことしかできなかった。祖母は「大丈夫よ」とあやしてくれたけど、私は大丈夫じゃなかった。
これが私のなかにある一番古い記憶だ。だけど親に話したことはない。妹が生まれたとき母が大変だったことも知っているし、父が一生懸命働いたから今の自分があることも知っている。だから言わないし、言う必要はないと思っている。
当時の記憶はぼんやりとしか残っていないけど、寂しかったのだけは鮮明に覚えている。だけど忘れたいとも思わない。あの頃の寂しい気持ちも含めて今の自分がある。
2歳の自分へ。
今は寂しいかもしれないけど、妹ができて楽しいことが沢山待ってるよ。それにあなたのことは忘れずに、今も自分の中にいる。だから寂しくないよ。
7/17/2023, 2:52:30 PM