胃がチクチクと痛む。それと同時に形容し難い吐き気が襲ってくる。寝る前の恒例行事となった格闘は、静かに僕を蝕んでいる。知人は誰しもが病院に行けという。けれど、これは僕の気性であって、病気の様な理不尽ではない。そう説明すると、決まって苦い顔をされる。今回も同じだと思っていた。けれど
「なんかそれって愛情みたいだね。」
君はそう言い伏せた。愛情。そんな曖昧なと思ったけれど、見方によっては似ているかもしれない。恋や愛は痛みを伴うと、そう聞いたことがある。如何せん、僕がそれを感じたことがないのが、悔やまれるが。
「愛情というのは、どうすれば知れるんだろうか。」
誰もが羨む程の、長い長い人生の中、僕が感じるものの中に愛情だとか恋慕だとかは無かった。きっと僕が鈍すぎたのだろう。
「ん〜、君の長い人生でそれを知る機会が無いなら、難しいかもね。けれど、何かのきっかけがあれば知れるよ。」
きっかけ。その事象を待つには、長すぎる気がした。もしかしたら一生を経てなお、分からないかもしれない。
「難しいものだな。」
人間というのは、様々な事を短い人生で考え行動するという。長い寿命を食い潰せない僕は、選択の先延ばしばかりしている。
「なんてったって、人間だもの。私たちだって分からないさ。愛情がどこからどこまでなのか。」
人間にも分からない曖昧なもの。それが愛情だという。解き明かすことさえできないそれは、神の所業とでもいうのだろうか。
「そういうものなのか。」
「そういうものさ。」
そよ風が窓からふきぬける。少しだけ彼女の髪が揺れる。陽の光に透けてしまいそうな彼女は、とても儚く綺麗な気がした。
題:愛情
11/27/2024, 10:33:42 AM