ざざなみ

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『やさしい雨音』

君の声はやさしく降る雨のようだった。聞いていると自然と心が和らいでいくようなそんな声だった。でも、もう君の声を聞くことができなくなってしまった。
私の耳が使い物にならなくなってしまったから。君がいくら私に呼びかけようともその声は私に届くことはない。
私はいずれ全ての体の“ パーツ”を失うことになるだろう。耳が使い物にならなくなったから次は目かそれとも脚か。
君の声はもう私に届くことはないけれど君は私にある感情を教えてくれた。
“ 好き”という気持ちを。私の中になかった感情を教えてくれたのだ。
だから、私も好きという気持ちを君に伝えた。
そしたら君は嬉しそうに笑顔で微笑んでいた。
私には何がいいのか分からなかった。
だって、私は──────アンドロイドだから。
初めから感情なんてものは持ち合わせておらず、ただ実験のために造られた道具に過ぎなかった。
そんな私でも君に会って少しは道具ではなくなったと思う。
人間が持っている感情というものを知り、心というものを覚えた。
そんな私はもうすぐ廃棄されることになるだろう。
廃棄されることは怖くない。だって、また新しいアンドロイドが造られるから。
私が怖いと思うのは君に会えなくなること。
私の廃棄が決まった時、君は泣いていた。
私はそんな君を抱きしめてあげたかった。新しく覚えた動作だから。
でも、その頃には腕が動かなくなっていた。動作に支障が出ていた。
それでも君に会えて良かった。
君に会う前、私は雨というものが嫌いだった。体が濡れて不快だったから。
でも、君に会ってから君の声のようなやさしく降る雨を好きになった。
最後に君に会えて良かった。君そのもののような雨を好きになることが出来たのだから、案外この世界も悪くないと思えた。
“ ありがとう、またいつか君に会える時が来たらその時はアンドロイドではなく人間の姿で会いたいと願う”

5/25/2025, 12:55:34 PM