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落下

 よくみる夢がある。
 落ちた後から始まり、ずっと落ち続ける夢だ。
 自分は背中を下にして、仰向けに近い体勢でゆっくり落ちていく。

 そこは中心が吹き抜けになった広い塔で無数の階層にわかれ、それぞれに回廊と手摺りがついている。
 時には何処かの階に灯りが見え、誰かが落ちていく自分を見下ろしている。

 自分はゆっくりと落ち続けながら、こんなにゆっくりなら何処かの階に泳いでいけないか、などと呑気に考えている。
 自分の他にも落ちていく者はいるが、言葉を交わす機会はない。


 昨夜の夢は少し違った。
 やはり同じような塔だが、自分は何処かの階に立っている。
 手摺りにもたれて落ちてくる者はいないかと見ていたら、後ろから誰かに押された。
 頭から落ちるその寸前に、此方に屈み込んだそいつと目が合った。
 知らない顔だった。

 自分は真っ逆さまに落ちていく。
 こんなに速いのか、と思った。
 すると何かが左の足首を思い切り摑み、突然落下が止まった。
 吊り下げられた頭を少しだけ上げると、目の前にさっきの顔があった。白目と黒目の区別がなく光もない、穴みたいな目だった。

 この塔は広いのに、こいつは何処に立っているんだろう。そしてさっきから左の足首を摑んでいるのは何なのだろう。
 そう思った瞬間にそいつが穴みたいな目を細め、足首が軽くなった。
 速いな、と思った。

 目が覚めると汗だくで、シャワーを浴びてから出勤した。
 地下鉄の出口を出る時に、此方に向かって降りてくる人がいる。
 夢で見たあの顔だった。


 と云う夢を見た。
 その顔は、今では思い出せない。

6/19/2024, 9:52:29 AM