終わらない夏
青い空に入道雲が浮かぶ。アブラゼミの声が二重、三重に響く。照りつける太陽が肌をジリジリと焼く。偶に吹く風は熱気を運ぶだけだ。熱い空気が一瞬かき混ぜられ、また止む。上空だけでなく、足元のアスファルトからも反射された熱気が襲う。逃げ場のない暑さ。熱気だけならばまだ耐えられるが、息を吸うのも苦痛になるほどの湿度が辛い。
堪らず林の中に入り込むも、日差しから解放されるだけで熱気は変わらない。加えて待ち構えていた蚊からの猛攻撃を受ける。
痒さか暑さか。
なぜこんな選択を迫られなくてはいけないのだ、とふと見た足元に、小さな丸い石が設置されていた。赤ん坊の頭ぐらいの大きさだろうか、完全な球形ではないが歪んだ丸い石。その前には萎れた花と中身が蒸発した茶碗が供えてあった。
この石、さっきも見なかったか。
は、と気付いて見回してみる。右に迫る林地と左に広がる水田。林地に沿って右に左に蛇行するアスファルトの道。道に沿って上空を這う二本の電線、電柱、畦道。
畦道に乗り捨てられたあの白い車はさっきも見なかったか。
後ろを振り返ると、さっきまで歩いてきた道が延びている。左の林地に沿い蛇行するアスファルト、水田に青い空。
行く道も来た道も代わり映えのしない風景だが、この、人気のない道は何処から延び、何処へ続くのか?そうだ、僕はいつから歩いていたか?どこへ行くつもりだったのか?水分も食事も、いつから摂っていないのか?
暑さも忘れ、僕は恐怖の中にいた。
僕は誰か、どんな人間か、誰か僕を知った人はいるのか。
空を見上げると、二羽の鳥が黒い影を見せて飛んでいる。それよりも低いところにトンボが飛び交う。一足踏み出すと無数のバッタが水田に逃げ込む。道を横切る蜥蜴。アスファルトの割れ目。
何より暑い。蚊に噛まれたところが痒い。汗だって流れている。
僕は生きている。ならばここはどこだ。僕は誰だ。なぜこんなところにいるのか。このままこの道を進んでいいのか、戻るべきなのか。
僕は僕を見失ってしまい、すっかり立ち止まっている。汗が滴る。被っている帽子が辛うじて影を落とす。
とにかくここにいても仕方がない。道を進んでいたからには、このまま進もう。何かわかるかもしれない。
僕はそのまま道を進む。道に沿って右へ左へ。蛇行しながら進んでいく。
やがて空を見上げると、青い空に入道雲が浮かぶ。アブラゼミの声が二重、三重に響く。照りつける太陽が肌をジリジリと焼く。偶に吹く風は熱気を運ぶだけだ。熱い空気が一瞬かき混ぜられ、また止む。上空だけでなく、足元のアスファルトからも反射された熱気が襲う。逃げ場のない暑さ。熱気だけならばまだ耐えられるが、息を吸うのも苦痛になるほどの湿度が辛い。
終わらない夏の中にいつまでもいる。
8/17/2025, 11:43:13 PM