かたいなか

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「過去の似たお題は、5月23日頃の『昨日へのさよなら、明日との出会い』、それから5月20日か19日あたりの『突然の別れ』が該当するのかな」
前者は「昨日にさよならして、『今日』じゃなくて『明日』と出会うって、『今日』はどこに置き去りにされてんだ」って切り口で童話風のハナシ書いて、
後者は、前回&前々回等々で丁度書いてた「捻くれ者の初恋と失恋話」にも繋がってるハナシ書いてたわ。
某所在住物書きは遠い遠い過去作を辿り、スワイプに疲れてため息を吐いた。

「過去作辿るの本当にダルいから、呟きックスに鍵垢作って自分専用にまとめてやろうかと思ってた矢先、例の『2014年以前の短縮URL』だろう?」
まとめ作っても、さよなら告知される前に仕様変更なり不具合なりされちゃ、ねぇ。物書きは再度ため息を吐き、ぽつり。
「結局いにしえの個人サイトが比較的安全なのか?」

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室。
人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が、腕を組み、人さし指を唇に軽くあて、
ぼっち用の小鍋の中でコトコト揺れる、鶏肉とキャベツと玉ねぎと、コンソメスープに浮かぶ脂を見つめながら、長々考え事をしている。
名前を藤森という。
元々少なかった藤森の部屋の家具は、先月下旬から更に減って、最低限最小限しか残されていない。

まるで、すぐにでも部屋を引き払い、どこへでも逃げて行けるようである。
事実それを想定しての少なさである。
詳しくは過去作品7月20日投稿分あたりに丸投げするが、要するに藤森は諸事情によって、
昔あるひとに恋をし、執着強いそのひとに心を傷つけられ、ゆえに区を越え今まで逃げ続けてきたものの、
先月、ふたりバッタリ道端で、出会い見つかってしまったのだ。

(早めに、離れた方が良いだろうな)
部屋の退去に必要な書類も、費用も、どの移動手段を用い何処まで逃げるかも、藤森はある程度、準備とシミュレーションが整っていた。
(都内で恋して都内で失恋して、都内に逃げたんだ。向こうが私を探すなら、いずれ必ず、見つかる)
もう、逃げるのは「これきり」にしよう。
今度こそ、あのひとの手の届かない場所へ。己の故郷であるところの雪国へ逃げよう。
そこまで決心しておきながら、なお己のアパートに留まるのは、ひとえに今の生活が幸福であったから。

(誰にもバレないように、悟らせないように、準備して手配して、手続きも終わらせて、
……宇曽野とあの後輩に、さよならを言う前に、さよならも言わずに、東京を出ていく?)
ブラックに限りなく近いグレー企業、クソ上司とクソ業務に追われる毎日。あらゆる物価が高く、騒音も光害も故郷に比べればただ酷い。
その東京で、藤森は真の友情を誓い合う親友ひとりと、食いしん坊で少々おてんばで時に頼り頼られる後輩ひとりを得た。
週に1〜2度部屋に来る、不思議な不思議な餅売りとも、思い返せば約5〜6ヶ月の付き合いとなった。
彼等との別れが、ただただ惜しいのだ。

(どうしよう)
決められない。踏ん切りがつかない。
藤森は己の優柔不断な脆弱さに長いため息を吐き、腕を組み直す。
(あのひととは、もう会いたくない。だが宇曽野と後輩は惜しい。私は、どうするべきだろう)
失恋相手との絶対的距離をとるか、己の交友関係を固持するか。
どっちつかずが一番困るのだと、自分自身よく理解しているくせに、
結局のところ、その両端から最も離れた位置で、どちらが正しいだろうと途方に暮れている。

「分からない。 わからないよ。宇曽野」
誰にも聞こえないのを良いことに、藤森はぽつりと己の弱さを開示して、
「……、っ、あッッつ!!」
ピチャリ沸騰で跳ねた水滴ひと粒に、しっかりしろと腕をつつかれた。

8/21/2023, 5:53:54 AM