けだるいツギハギ

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遠い相合傘(創作)

 高校の時の話で、この時期になると思い出す。僕を変えた男。あの日までそいつには、ちょいグレてそう以外に印象が無かった。

 その日は体育館の倉庫で、僕は女子に告白された。「あんたが好き」。そんな風なベタなシチュエーションで、多分「いいよ」と肯いた。僕は恋を軽く捉えていた。
 放課後その子と帰る時、例のそいつとそのいつメンが来た。そいつは僕達のことをスルーしたが、周りでヒューヒューとひやかされた。
「なあお前ら傘持ってる?」
 言い訳をしていたら、外野から気の抜けた声が聞こえ、僕らは傘を少し上に掲げる。そうするとそいつはバッと制服を脱いで、しわくちゃな雨避けにした。
「やっぱこれよ。ごめん俺先帰るから」
「ねえ、傘使う?」
 鶴の一声、そいつに傘を差し出したのはその時の彼女だ。打ち付ける音が遠くなるくらい一瞬の静寂。僕は生唾を飲んだ。そいつは驚いていた。そして彼は悔しそうに歯を食いしばった。
「要らねえよっ」
 今にも何かが溢れそうなそいつは、何を血迷ったか差し出されたレディースの水玉の傘をぶんどって、土砂降りの中を走り出した。
「あいつ、〇〇(彼女)好きだったんだよ、許してやってよ」
 苦笑いでいつメンがフォローを入れる。彼女は「そう」と呟いた。僕は黙ってそいつが走った方向へ目を向けていた。
 やがて正気に戻って傘を差すと「あげちゃったから入れて」と自然に隣に入ってきた。しかし、僕は全部どうでもよくなっていた。

 僕が、そいつを好きになってしまったのだ。その全速力の想いに。

 相合傘の下で僕達は遠く、そいつと彼女の傘も繋がっているのに遠かった。

6/19/2024, 4:11:01 PM