埜日人

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雪が降る日に、決まって私は町外れの森の奥へと向かう。
大切な友達に会いに行くために。

辺り一面銀世界のそこにいたのは、とんがり耳を持ち、赤茶色の毛皮に包まれたふわふわの生き物。

オオカミだった。

「…久しぶり」

オオカミに向かって声をかけると、その耳がピクリと動いた。琥珀色の瞳が私の姿を映し出す。

「あぁ久しいな。少しばかり見ない間に大きくなったな」



不思議なことに人の言葉を話すことができるこのオオカミは、雪が降る季節が訪れるとこの森に現れる。

そのことを知ったのは私がまだ幼かった頃、家族に内緒で雪遊びをしに森へ入り、迷子になってしまったのがきっかけだった。あの頃の私は好奇心旺盛で目を離してしまうと直ぐに何処かへ消えてしまうような危なっかしい子だったらしい。

雪遊びに満足して家へ帰ろうとしたときには、ここまで来た足跡は跡形もなく消えていて、何一つ目印もない中でひとり森の中をさまよっていた。
泣いても泣いても誰かが迎えに来てくれるはずもなく、泣き疲れてしまった私は大きな木の幹に寄り掛かり座り込んでしまったのだ。

ジャンパーを身につけていたものの、長時間外にいることもあって私の身体は寒さで限界を迎えようとしていた。

ふいに眠気が襲い、うつらうつらと頭が揺れ出す。

「…人の子よ、眠ってはならぬ」

大きな影が私を包み込んだかと思うと、頭上から声がした。
まだ頭が覚醒しきっていないまま、視線を上へとずらす。

「わぁ、おっきなお犬さんだぁ」

突如として現れた大きな犬のような生き物に、幼い私は思わず抱きついた。

あったかい。

柔らかな温もりが抱えていた不安を溶かしていくような気がした。

「む、大きな犬ではない。私はオオカミである」
「オオカミさん?」
「あぁそうだ。お主は迷子になってしまったのであろう?」
「…ん、おうちまでのかえりみち分かんなくて」

家族の顔を思い出し涙が溢れ出てくる。
オオカミはそんな私を見かねたのか、溢れた涙を舌で掬いとると、洋服の首元を口で掴んで引き上げ、自分の背中へと乗せた。

「このまま私の住処をウロチョロされていては適わぬからな。私が森の入り口まで連れて行ってやろう」

オオカミが歩き出すと、今まで迷っていたのが嘘かのように、ものの10分程度で森の入口へと辿り着いた。

「もう迷ってはならぬよ」
「うん。ありがとうオオカミさん」
「礼などよい。早く帰って親御たちを安心させてやれ」

オオカミは帰路に着いた私の姿を完全に見送るまで、森の入り口で待ってくれていた。

そんな優しいオオカミのことをえらく気に入った私は、翌日から毎日のように、オオカミに会うためだけに森の中へ遊びに行った。

そこからこの不思議なオオカミとの親交は始まったのだ。



「今日はね、見て欲しいものがあって」
「ほう?」
「これなんだけどね…」

通学用リュックから取り出したのは丸めた画用紙の筒。
結んでいたリボンを解きオオカミの目の前で広げる。

描かれていたのは、赤茶色の毛並みを持つ生き物の姿。

「これは、私か?」
「うん。学校で描いたの。オオカミさんに見せたくて」
「そうか…」

いつものように澄ました顔を決め込んでいるが、嬉しさを隠しきれていないようで、その証拠に尻尾はブンブンと大きく揺れていた。

持ってきてよかったな。

内心、似ていないとか良く思われなかったらどうしようという不安があったのは事実だ。それでも精一杯の気持ちを込めて描いたものだったので、少しでいいからオオカミさんに見てもらいたかった。

「ありがとう」
「こちらこそ、あの日わたしのことを見つけてくれてありがとう」
「ふふ、お礼にお礼で返されるとはな。…さて今日は何して遊ぼうか」
「うーん…あっ!鬼ごっこしようよ」
「そうか分かった。また逃げるのに夢中になって転ぶなよ」
「もう!子供じゃないんだから」



冬になったら私たちは2人だけの楽しい時間を過ごす。
きっと来年も、再来年も、ずっと。



#冬になったら

11/17/2023, 1:11:31 PM