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「君の初恋はいつ?」
「……状況分かってます?」

「もちろん!MS5!」
「……」
「きっと聞かれないだろうから言っておくとM(マジで)S(刺される)5(秒前!)の意だよ」

「あの、黙って」
「その物騒な武器を俺の首から離してくれたら考えるよ!」

「ちなみに俺の初恋は今さっき!君です!付き合ってください」
「……媚びても無駄ですよ」

「いてててて!ちょっとくい込ませないで!マジ!マジです!あれ、見ないメイドだなー、可愛いなー、って見惚れてたらこのザマだよ!あ、そうだ、はじめまして。どこに雇われた人かな?何歳?お名前は?彼氏いる?」

「ご丁寧にありがとうございます。はじめまして、お坊ちゃん。全て秘密です。で、そろそろいいですか?」

「秘密かー。君のこともっと知りたかったのに残念だ……ま、君にならいいよ~一思いにやってくれ。」

無事了承を得たので手に力を込めた。なんだかんだふざけていたけど、過保護な両親によってほぼ軟禁されていた箱入り息子。手を震わせぎゅ、と目を閉じている。本当は怖いんだろうに、かっこつけて、馬鹿な人。

彼の首からそっとナイフを離し、そのまま自分の首をかき切った。


最初からそのつもりだった。



無様に床に転がる。いつの間に目を開けたのか、私を見下ろし何事か言っている彼に微笑みかけた。
全ての感覚が遠くなっていく。あんなにうるさかった彼の声がまるで聞こえなくて残念だ。


ターゲット写真を見た日からずっと会ってみたくて、話してみたくて、焦がれていた人。

こんな立場同士だ、私たちが一緒になれることがあるはずない。

だから、どうしても一生忘れられないほどに記憶に焼き付けてしまいたかった。


さようなら、私の初恋の人。

5/8/2023, 4:11:57 AM