やわら

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腕を組んで仲睦まじそうに、色とりどりのネオンライトが煌めく歓楽街に消えていく男女二人。
嬉しそうに笑う青年と、目尻を下げた婦女子。

写真の中の二人は、誰が見ても恋人らしくて。
その幸せオーラが憎らしくて奥歯を噛み締めた。

「クロ、ですね。」

数枚に渡って提出された写真の中には、人目を憚らずに唇を重ねている姿が写ったものもある。

「出張ということで、気が緩んだのでしょう。これだけハッキリ写っていれば、証拠能力は充分にあると思われます。」

これを持ち帰ってきた探偵は、淡々と成果についての見解を述べてくれた。女の顔がしっかり撮れてるものもある。これならきっと、女の方にも慰謝料を請求出来るだろう。追加料金を払った分はあると思える、素晴らしい仕事ぶりだった。

「では、後金は口座にお願い致します。」

そう言って探偵はカフェを後にした。
この写真があれば、彼の社会的信用に大きく傷をつけることができる。離婚は当然のこと、彼の会社での居場所さえ、奪うことが出来る。

切り札を手にした。
私は、いつだって勝てる。

だというのに、机の上の紅茶も窓の外も、全部灰色のまま。

悔しい。女に笑いかける顔は、私が好きだった顔のままだった。相手が私から女にスライドしただけ。

それが、何より憎らしい。

もしあの時、
私が落とし物なんてしなければ。
彼に恋なんてしなかったのに。

もし、あの時。
彼の引っ越しに着いていかなければ、そこで縁が切れていたのに。

もし、もしもあの時。
彼の指輪を受け取らなかったら、

もし、もし、もし。

過去に戻れたなら、教えてあげたい。

「あんたが好きなそいつ、とんでもないクズだったよ。」って。

そしたら、こんな苦しい気持ちなんて知らなくてすんだのに。

7/22/2024, 1:40:01 PM