わをん

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『相合傘』

授業終わりに男友達とのおしゃべりがノリにノッて気づけば17時を回りかけていた。そういえば今日は雨予報だとお母さんが出掛けに教えてくれていたのを思い出して窓の外に目を凝らすとくもり空を背景に斜めの筋がいくつも見えてくる。
「雨降ってるわ」
「マジか」
昇降口で上履きと靴を履き替えて外を伺うとアスファルトに水玉模様が現れていて雨が降りたてのときの匂いが漂っていた。
「折りたたみあるけど、途中まで入ってく?」
「しのびねぇな」
「かまわんよ」
ふたりで入るのはやや小さい傘に肩を並べて、けれど謎の遠慮で一定の間隔が開いたまま、雨音を聞いていた。あれだけしゃべっていたのになぜだか言葉少なになっていた。通りすがりの人が見たらカップルだと思われるだろうか、とか普段考えないことを考えてしまう。
「なぁ」
「な、なに」
「俺こっちだから。傘あんがと」
気づけば帰り道の別れ際になっていて、ほんのりと残念に思う気持ちに気づいた。友達はカバンから黒い棒状のものを取り出すと、それを開いて歩きだしていく。
「えっ、あれ?」
黒い折りたたみ傘を差した友達は、ふり返るとニヤリと笑う。
「わざと?」
「わざと!」
それだけ言うとこころなしか赤い顔をして走り去っていった。残された私はうれしさや恥ずかしさややられたという気持ちでいっぱいになり、しばらくその場に立ち続けていた。

6/20/2024, 4:09:20 AM