わぁわぁとはしゃぐ、小学校停学家くらいの子供たちの声が、結露で曇った病室の窓に響いた。病院の向かいに広がる野原は、すっかり雪に覆われて、今ではこの病室と大差ないような白さが日光を反射している。
そんな子供たちを微笑ましく思う一方で、底痴れない嫉妬と羨望が胸の奥を焦がしていた。俺は高校生にもなって、今だ点滴のチューブと頼りない針一本でもってこの味気ない病室のつまらないベッドに縫い付けられているのに。雪の冷たさも、悴む指先を友達の首筋で温めて笑い合うことも、全部窓越しにしか知らない。
ずるい。俺が何をした?なぜ俺だけがそこに混ざれない?理不尽な問いばかりが喉元に詰まって、言葉を吐くことも、息を吸うこともできない。誰も悪くない、俺も何もしてない。ただ、運が悪かっただけ。そんなのは、分かりきっていた。けれど、どうしても恨まずにはいられなかった。あの雪原を自分の足で踏んでみたい。看護師が気を使って持ってくる、溶けかかったみぞれに近いようなのじゃない雪に触れたい。そんな小さな願いさえ、世界は許してくれない。
それで、どうしても羨ましくて、俺は出来心で病室の窓をほんの少しだけ開けた。換気の為、この時間は病室の窓の鍵が外されたのを見た。それでも、開けられたのは俺に直前風が当たらない側の窓。それに苛立って、思い切って自分に風が当たる方の窓を開けてみた。きっと、長さにして3センチ程度。
外から吹き込む雪交じりの風が顔に当たって、空調で整えられた室温で温んでいた頬がみるみるうちに冷えていく。時折瞼や額に触れる雪は風よりさらに冷たくて、熱で魘される俺には天からの贈り物のように思えた。
なのに、俺の体はあまりにも弱くて、どうしようもなかった。窓を開けて数分、冬の乾いた空気は俺の肺には相当酷だったらしい。咳が止まらなくなって、呼吸さえ怪しくなって、それで必死でナースコールを連打した。
バタバタと駆け込んできた看護師の手によってすぐに窓は閉められ、俺はしこたま怒られた。こんなことさえ耐えられない自分の体が嫌になって、体に連動して弱った心はいよいよ決壊した。
過呼吸になるくらい泣いて、もう嫌だと暴れた。それも結局、背も低く華奢な女性看護師に押さえつけられて、ますます自分が嫌になっていく。自分と同じ身長の男子高校生で、もしも健康ならば。この女性看護師では押さえつけられなかったはずなのに。時代に合わないような差別的思考なのも分かっているが、それでも、生物としての性質さえマトモに機能していない気がして腹が立った。
ひとしきり暴れて体力の尽きた俺は、電池の切れたおもちゃのように眠りについた。夢に落ちる寸前、散々泣いた涙が睫毛に纏わりついて、それが光を反射するのが雪のようで、俺はまた、あの雪原の先を夢に見た。
テーマ:雪原の先へ
12/9/2025, 5:22:06 AM