お題『巡り逢い』
皐月が抱っこをぐずりだした。
両手にはスーパーで手に入れた激安食材たち。
「さっちゃん、ごめんね。もうちょっとだけあんよできるかな?」
本当に、家まで本当に50メートルほどなのだ。頼む、歩いてください!!
祈るような気持ちで皐月に
「ほら、あんよがじょうず! あんよがじょうず!」
と言っていた時だった。
そこに颯爽と現れたのが、夕陽すら眩しく弾くゴールデンレトリバー。彼なのか彼女なのかはわからないけれど、その犬はお仕事中らしくハーネスをつけていた。
「わ……わぁ……わんわん!」
「さっちゃん、おっきなわんわんだねぇ……って。皐月!?」
あろうことか皐月はその犬に駆け寄って行ったのだ。
「わんわん……おっきいねぇ……」
その犬は皐月を無視しているかのごとく前を向いて歩いているのに、皐月はその後ろをついて歩いた。
奇しくもうちのある方向だ。そのまま歩いていって、お願い、お願い、そのままうちの前まで行って……お願い……。
私の願いが届いたのか、利用者さんとその犬は我が家の前までやってきた。
しかし、今度は嫌な予感がしてきた。
「ほら、さっちゃん。おうちに入ろうか」
すると皐月は「いーやぁぁぁ!!」と金切り声を上げる。
「わんわん! わんわん!!」
その犬との別れを受け入れられない皐月がとうとう泣き出してしまった。
利用者さんはまるで一部始終を知っているかのように、
「お嬢ちゃん。うちのわんわんが気に入ったかい?」
と話しかけてきた。
真っ直ぐに前を向いたままのおじさまに、サングラスを掛けている理由が眩しい夕陽を遮るためのものではないことがうかがえる。
その言葉に皐月は頷いて見せたが、そうなると私が間に立つより他なかった。
「さっちゃん、頷くだけじゃなくてきちんと声に出してお返事したほうがいいよ」
「うん。さっちゃん、わんわんだいすき!」
するとそのおじさまは微笑んだ。
「そうかい、嬉しいよ。今彼女はお仕事中だけど、このあとうちの息子が散歩に出るから。そのときにいっぱい遊んでやってくれるかい?」
皐月はぐずっていたのが嘘のような晴れ顔で「うんっ!」と元気にお返事をした。
それ以来、散歩の途中になると彼女はうちの前で皐月を待っていてくれるようになった。
4/24/2025, 10:47:40 AM