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 夏と冬は長きにわたり、この国の支配権をかけて争っている。
 春と秋はもう随分前から戦線を離脱している-少なくとも表向きは。
 従ってかつて「四季がある」と称されていたこの国は、
 春:五パーセント
 夏:四十五パーセント
 秋:五パーセント
 冬:四十五パーセント
くらいの割合で支配権が分散されている。
 だがここに至って、二つの新勢力が台頭してきた。
 この二つは「季節」そのものではない。だが夏と冬のそれぞれに食い込み、今はともに春を取り込もうとしている。
 一つは梅雨であり、もう一つは花粉症である。

 梅雨は雨の頻度ではなく、振り方のムラによって勢力を拡大している。まだ春のはずの季節に大雨が降ると、人々は梅雨が始まったと錯覚する。夏が完全な支配力を振るう時まで散発的に交通機関の乱れを引き起こし、人々のQOLを下げる、極めて危険な勢力である。
 しかしわたしがより心配しているのはもう一つ、花粉症の方である。
 スギとヒノキの力により、彼等はすでに春に浸透し、あたかも大昔から存在していたかのように振る舞っている。
 だが私が確かな筋から得た情報によると、かの金太郎の故郷である神奈川県の足柄山あたりでは、たかだか半世紀近く前、スギ花粉症は「足柄病」と呼称されていたらしい(※アレルギーであることが分かっていなかった時代に、杉が大量に生えている彼の地へ行くと原因不明の鼻炎になる、として地元のごく一部の医師が使っていた表現。実際の病因と地名が無関係なのは言うまでもない)。

 春はすでに彼奴等に乗っ取られている。唯一の救いは、私がまだこれらのアレルギーではないということだ。
 私が今、一番憂慮しているのは、最近花粉症が秋にも魔手を伸ばしており、その尖兵が、私に有害なある植物なのではないかという情報である。
 その恐るべき植物の名はブタクサである。
 許すまじ。

6/29/2024, 11:05:02 AM