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 夥しい数の屍が転がっている。
 噎せ返るような死の匂いにえづく者はいない。山越え谷越え、苦楽を共にし、同じ釜の飯を食らった彼らは、物言わぬ肉へと成り果てた。
 ──目の前の男の手で。
「なんだ、生き残ったのは一匹だけか」
 あれだけ啖呵切っといて呆気ないなァとぼやく男の、至極つまらなそうに毛先を弄る姿に、鞘を握る手に力がこもった。
 身体中を伝う赤が、顎から、襟から、指先から地面へと線を描く。
「それで? お前がヴィヴィ最強の剣士とやらか」
「違う」
 男を睨み付け、中身を抜いた鞘を投げ捨てる。
 深く息を吐きながら出来る限り重心を下げ、刀身を地面と平行に傾ける。
 これは、師匠──ヴィヴィ最強と謳われた剣士・アルツと同じ構え。
 アルツは死んだ。男の攻撃から俺を庇って。

「……お前が殺したのが誰か、あの世で思い知れ」
「ハッ、面白い! やってみろよ、やれるものならな」

 視線がかち合った瞬間、戦場に閃光が走る。
 さあ、仇討ちの時間だ。


▶視線の先には #75

7/20/2024, 8:20:32 AM