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鳥かご
あるゲームの夢小説です。(ネタバレを含む可能性があります)


「あの…どこに、行くんですか…?」

彼が自分の腕を掴む。
言葉は少し弱々しいが、それに伴わず腕に掛かる力は強い。

「君の部屋に行こうとしてたんだけど…」
「えっ…」

それを聞くと彼は俯き気味だった顔を上げ微笑みを浮かべた。

「嬉しい、です。では…僕の部屋に行きましょうか。」

その微笑みを見ていつもなら同じように嬉しくなるはずが、今回はなぜか嫌な予感がした。
日々の経験で高くなった直感を今は少し憎く感じてしまう。
気付きたくないことも気付いてしまうから。

そんなことを考えながら彼と歩いていると、もう部屋に入っていた。

「どうか、しましたか…?」

彼が心配そうに様子を伺う。

「ううん、大丈夫だよ。君こそ、なんかあったりした?」

少しの沈黙の後、彼が口を開く。
「貴方には隠せませんね…。気付いてくれるとこも好き、ですけど、気付いてくれなくても…」
「何があったの?ゆっくりでいいから教えてほしい。」

「今の僕はきっともうだめなんです。」

彼が俯きながらそう言った。
少し震えているような気がして、彼の手を取る。
彼もそれを受け入れ、互いの体温が交じるのを感じる。

そんな時間が少し経ち、落ち着いたかと思えば
今度は彼が優しく手を持ち上げ、手の甲に口づけをした。

「え…?」

嬉しさ、焦り、困惑
様々な感情が飛び交う中彼の顔を見る。

「貴方が好きです。だから貴方をどこにも行かせたくない。鳥かごの中に入れて大切に大切にしておきたいと…」

「そう、思ってしまうんです……
 思いたくない、のに。」

⸺だから、


彼に手を伸ばそうとした時、
彼に突き飛ばされ彼の部屋から飛び出てしまった。

彼の部屋の扉が閉まり、呆然とその場で座り込んで数分後、終わりの合図が聞こえた。



彼の顔を見たとき、綺麗な黄金色の瞳だったこと
部屋から出る前、好きですと伝えられたこと

それだけで分かってしまう
そんな自分が嫌だった


いっそのこと、この宇宙ごと自分の水でいっぱいになって崩壊してしまえばいい
そんなことを考えていたらもう自分はいなかった。

「鳥かごには入れないよ…」

7/25/2023, 7:41:52 PM