もんぷ

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揺れる羽根

 同じシャンプーとリンスで、ドライヤーも適当に終わらせるくせに、常時発生しているあの天使の輪は何かの嫌味なのだろうか。ドラッグストアでシャンプーとリンスを眺めていたら、思考の真ん中にいた男の現物が奥の方からやってきた。詰め替え用のやつがあんまり安くないしこっちに変えても良いかと聞くとすぐに了承された。お会計を終え、大きなカバンを持って隣を歩く彼の姿を見る。ブリーチを繰り返して色素の抜けた金髪に、ぱっちりとした目と高い鼻。純日本人であるとは信じ難いほどに、日本人離れした顔の整い方は、もはや彫刻だ。
「ん?」
ずっと見ていたこちらに気づき、優しく微笑まれた。白いダボっとしたスウェットに黒いズボンというシンプルな出立なのに、それだけでも様になるスタイルに嫌気がする。
「あ、排水溝ネット買わな。100均行こ?」
その綺麗な口角から出る言葉は割と庶民的で、長年の付き合いの自分からそれがうつってしまったのかと思うとどこか申し訳ない。しかし、生きるためには必要なことだ。行きつけのショッピングモール内で勝手を知り尽くした100均。先週来た時よりも季節のコーナーが変わっていて今はハロウィンらしい小物やらがたくさん置いてあった。特に何かをするって予定は無いし、イベントごとにいちいち浮かれるような時期も過ぎたけど、なんとなくその棚の前に足を運ぶ。
「あ、これかわいい。」
とか言いながら目の前の男はカボチャの置物なんかを手に取っている。そんな中、ふと目についたのはサンプルの白い天使の輪のカチューシャ。何の気なしにそれを彼の頭にあてがう。急に頭に何かをつけられているのに当たり前のように受け入れ、どう?とかわいらしくポーズをとっていた。うん…なんか分かってたけど似合い過ぎている。あるはずのない白い羽根が揺れている。ただかわいいだの似合うだの言えば調子に乗るのは確実なので微妙な反応を返す。
「えー、じゃあそっちはこれな。」
そう言って手に取ったのは黒いふわふわの猫耳のカチューシャ。完全に自分には似合わないやつ。
「嫌なんだけど。」
「絶対かわいいから!お願い。」
つけるまで買い物に戻れなそうだったから仕方なくつける。棚の上に置いてあった鏡に映った自分はひどい顔。大体休みの日に買い物するだけのダル着だし、髪もセットしてないし、嫌々だからひどい顔。ほら、かわいいわけがないと文句を言おうとした途端、シャッターの音が響いた。彼はしてやったりの顔。そこで、彼はやはり天使の顔をした悪魔であると理解した。

10/26/2025, 9:59:48 AM