紫乙

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子供の頃、姉のために用意された雛壇飾りを見て、なぜ私のはないのかな?と思った。
姉は、2月末に誕生日が来るため、誕生日前になると
おひなさまを出すから、手伝って!
と、よく母に言われ、言われるがままに手伝った。
こんなに沢山のお人形がある。
ガラスケースに入った物も合わせれば、六畳間は足の踏み場がなくなる。

こんなにあるんだから、1つくらいは私のために用意されたのがあるはずだろうと、箱から1つずつ出すたびに、
これは誰の?と母にいちいち尋ねた。

これは誰の?

ん?お姉ちゃんのだよ。

これは誰の?

お姉ちゃんの。

さすがに3つ目を過ぎた辺りから、母も面倒になり、

そんなこといちいち聞いては箱から出してたら進まない!聞かなくていいから、やりなさい!

結局、私のために用意してもらったお雛様は1つもなかったことを知る時が来る。

今、自分も親になり、あの日の事を思い出すと、母のあの返答は、子供の不安に寄り添えてないな。あれは無い。と思う。
そう。意外と子供の頃の事をよく覚えていて、言われた言葉はハッキリと鮮明に。
その度に、やはり姉は特別に可愛がられ、期待されて大切にされたのだ。
そんな時、私は自分の事を少しだけ褒めてやりたくなる。
そんなに粗末に扱われて、ヤンキーにならずによく頑張ったな!と。
まったく期待されなかった分、伸び伸び自由に期待を超えて成長させてもらったわ!
期待されなかったから、どんぐりくらいの成長でもとても大きく育った事になる。ただそれだけ。

3/3/2024, 3:18:45 PM