ゆま

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 この空の向こうにはかつて大きな都市があったらしい。
 何百年も昔、まだわたしたちに羽根が生えていた頃。人々はそこで暮らし、さまざまな生活を送っていたという。
 空と大地を自由に行き来して、鳥たちと歌い遊ぶ。太陽は今よりずっと近くにあって、時折優しい歌声が聴こえてきたという。

 小さい頃、おばあちゃんがそんな話をしていたと、寝転がって空を見て、流れる雲を眺めていたら思い出した。
 その話が本当かどうか、今となってはわからない。今を生きるわたしには、羽根なんて生えていないから。鳥の羽ばたきを見送ることしかできないし、太陽の歌なんて聴こえない。
 でも。目を閉じて、空想する。もしも羽根が生えていて、空を自由に飛べたのなら。青い空を駆けて、あの雲と同じ高さで世界を眺めることができたなら。心は躍る。それはきっと素敵なことだ。

 瞳を開く。真っ青なキャンバスに、飛行機雲が線を描く。手を伸ばす。遠くの空を、わたしはここから見上げることしかできない。それがなんだか寂しくて。

 今もまだ空に遊ぶ、鳥たちを羨ましく思うのは。
 遥かの太陽に、こんなにも恋焦がれるのは。
 かつてわたし達が空にあった証拠なのかもしれない。

 もう一度、空を舞う。
 瞳を閉じて、私はそんな夢をみる。




【大地に寝転び雲が流れる…目を閉じると浮かんできたのはどんなお話?】

5/4/2023, 2:10:09 PM