マドレール

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泣かないよ

 「寂しくなると思ってずっと言えなかったんだけど、私明日引っ越すの」
突然のあなたからの告白に何も言えなかった。
 どうして言ってくれなかったのだろう、私たち親友だと思ってた。親友なら一番に言ってくれるものじゃないの? いや、親友だと思ってたのは私だけだったの? そうか、だから何も言ってくれなかったんだね。

 お見送りなんて行ってやるもんか、と思っていたのに駅まで来てしまった。
「来てくれてありがとう。あの、引っ越しのことずっと言えなくて本当にごめん、悲しむ顔見たくなかったの」
ドラマでよく見るけど、こういうときって、2人で泣きながら抱き合うんだろうなと思った。泣かないよ、私は。
 発車の合図のアナウンスが鳴り響いた。あなたはなんだか気まずそうに、
「じゃあ、行くね」
と言って、新幹線に乗り込んだ。私は、ずっと無表情のまま何も言わずにあなたの姿を目で追った。そのまま顔色を変えずに見送るはずだったのに、新幹線が発車して、あなたの姿が完全に私の視界から消えた時、私の目から一粒、二粒と涙が溢れた。絶対泣かないと思ってたのに泣いちゃった。本当は分かっていた。いつもあなたは私のことを思いながら話をしてくれていた。クラスメイトが陰で私の悪口を言っていたことも、他の子は教えてきたのに、あなたは何も言わずに笑っていた。私が悲しむと思ったのだろう。だから引っ越しのことも言えなかったんだよね、気づいてたのに気づいてないふりをした。
 私から会いに行くね、必ず。

3/18/2024, 10:22:58 AM