三羽ゆうが

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お昼休み、A組の教室にて。

「𓏸𓏸?どしたの、元気ないじゃん」

「……ふぇ?あ、うん、大丈夫」

「……また何かされた?」

「ううん、××ちゃんが居るから大丈夫だよ」

私立∅∅高校。この辺りでは飛び抜けて賢い進学校で、有名大学へ行く人も多数在校している。その中でもトップクラスの成績を誇る𓏸𓏸と、底辺争いをしている𓏸𓏸。この学校で知り合った2人は、少し歪な関係性だった。

「すぐ私に言いなよ。いい?」

「うん、分かった」

「これ、私のあげる」

「いいの?」

「うん、何本でもあげちゃう」

「ふふ、ありがとう」

今日も𓏸𓏸の筆箱が無い。単純な話、出来の悪いヤツらの嫉妬だ。××が助けたあの日から2人は依存するように関係を持ち、いわゆる友達以上恋人未満というやつだった。

「𓏸𓏸、今日私の家来る?」

「……今日もいいの?」

「うん、親帰って来ないから」

「…………いく」

キンコーン、と予鈴が教室に響く。××は慌てて自分のクラスに戻っていった。

その瞬間から周りが敵だらけになる。全員がライバルで、全員がお互いを妬みあっている。

容姿端麗で成績はダントツトップ、優しくてお淑やか……。𓏸𓏸は良くも悪くもこうなる事に慣れていた。昔からこうだったのだ。今更何も変わらない。

「……𓏸𓏸さんってほんと腹立つよね」

ひそひそ

「わかる。何でもできますーみたいな余裕ぶってる感じ」

ひそひそ

「ほんとうざい」

ひそひそ

文句があるなら超えればいい。実力が無いだけなのにひそひそと陰口ばかり。

「……仲良くしてる××さんに手だす?」

「あり、それ最強」

思わずびく、と背筋が凍る。今はただの戯言だと思い込むしかない。






次の日からは××の物が無くなり始めた。しかし××は𓏸𓏸にずっと笑顔で笑いかけている。

「昨日楽しかったね!」

「……うん」

「……楽しくなかった?」

「んーん、楽しかった」

「…………ん、ならよかった」



𓏸𓏸は賢い。だから分かっていた。最初からこうすればいいと。






𓏸𓏸が行方不明になった。××が今日の朝いつも通り家まで迎えに行ったら、𓏸𓏸の親に昨日から帰っていないと伝えられたのだ。メッセージは未読、勿論電話も出ない。嫌な予感がして、スマホを握りしめとある場所に向かう。

“この場所、好きなんだよね”

“何で?”

“……私の避難場所”


真っ青に広がる海。𓏸𓏸の避難場所。荒い波の中、地平線に向かう1人の姿。

「𓏸𓏸!待って!」


一瞬こちらを振り返り、にっこりと笑った𓏸𓏸の体は、どんどん水に沈んでいく。手を伸ばしても足を動かしても波に揉まれて届かない。ピロン、と通知音が1つ。


『出逢えて良かった』


淡々とメッセージだけが映し出されていた。


『1件のLINE』

7/12/2024, 6:18:33 AM