つぶて

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初恋の日

その名前を素直に呼べなくなった日。


一年後

春を彩る無数の花びらを、一人見上げた。
ふわふわと小さく揺れる桜。なぜか母性を感じた。
変わってもいい。変わらなくてもいい。そう言っているような気がした。ぼんやり佇んでいる私を、桜は許した。理由を尋ねることもせず、ただ柔らかな腕を広げていた。そっと花びらに手を伸ばすと、小さい頃、母親の膝に頭を置き、その頬に手を伸ばした光景が蘇った。
職場でつまずいた。人間関係で、思いっきり。どうやったって元の環境には戻れない。辞める覚悟もなく、かといって続ける気力も持てないまま、今日に縋りついている。
一年を思うのは、決まって桜を見る時だった。生まれ月だからだろうか。桜の木にはいつも私の過去があった。
去年の私は、何を思っていたのだろう。新しい配属先。新入りとして、期待に胸を膨らませていたはず。それが今となってはどうだ。こんな自分をかけらも想像しなかっただろう。
私は、どうすればいいの。
桜の木は答えることなく、ただそこにある。変わらない私と、変わりゆく私を見ていてくれている。そして一年後、また立ち止まる時間をくれるのだろう。
一年後の自分は何を思うだろうか。
わからないけれど、こうして桜を見上げているに違いない。

5/9/2024, 9:57:20 AM