真澄ねむ

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 常夏のような熱帯林を歩いていた。べたべたとした湿気が肌にまとわりついて、衣類が体に張りついて鬱陶しい。
 この辺りは下生えの背が高く、フィエルテの頭が見えたり見えなかったりとする。
 フィエルテはまるでお花畑でも歩いているかのような軽やかな足取りで、どんどんと先を進んでいってしまう。
 ミラは先を歩く彼女に向かって声をかけた。
「おい! あんまり先に行かないでくれ」
 彼女は立ち止まるとくるりと振り返った。
「ごめんなさい」彼女ははにかんだ。「見たことない景色だから、わくわくしちゃって」
 やっと彼女に追いついた彼は苦笑を浮かべた。
「まあ……確かにお前は見たことのない景色が多いのだろうな」
 二人はそれぞれ使命を背負って生きてきた。二人の使命は重なり合うところがあり、お互いの最終目的のために二人は共に行動していた。
「ミラさまは色んなところを旅されていたんですよね?」
 フィエルテは隠れ里と、海を渡ろうとして難破し漂着した先の寒村での生活しか知らない。紆余曲折を経て、フィエルテはミラと出会い、彼と共に旅に出た。
「ああ。……まあ、多少はな」
 彼は言葉を濁した。フィエルテと出会う前の自分の足跡を、彼女に告げたことはない。褒められたものでもないから、今後も告げるつもりはない。
 しかし、全てが終わった。彼の終生の敵であった亜神を斃した。亜神はまた、フィエルテの隠れ里にとっても敵だった。再び復活はするであろうが、少なくとも数百年ぐらいは平穏がやってくるはずだ。
 ゆえに、最終目的をお互いに果たした今、フィエルテは各地を旅して回ろうとしているのだった。ミラは彼女の旅の助けをするべく、定まらない道のりに同行している。
 初めて見るものが多いのだろう。彼女はいつでも目をきらきらと輝かせて辺りを見回している。彼女のその様子を見ていると、遙か遠くまだ見ぬ景色に心を躍らせていた頃を思い出し、年若の彼女に対する罪悪感が湿気のようにまとわりついてくるのだった。

1/14/2025, 8:26:03 PM