たやは

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つまらないことでも

子供のころから家業を継ぐことが決められ、俺自身が将来について考え、選択したことは一度もない。

家業は呉服屋だ。

客商売だからつまらないことでも噂を立てられたら、50年以上続いた店は終わる。
店についている客は、高級志向で自分たちが使う物にも品格を求める。もちろん、買った店に対しても厳しく、店の、いや店主のスキンダルなんて考えられない。
なのに、親父が援助交際しているとの噂が立っていた。
親父に確認したが否定はしなかった。
軽率すぎる。馬鹿じゃないのか。
自分の立場が分かっているのか。仕事に不安があっただの、金の工面でストレスを感じていたなんて言い訳が通るわけない。
このままだと本当に店は潰れる。
いっそ、親父に死んでもらって俺が店を継ぐことにすれば、店主が変われば少しは評判も持ち直せるかもしれない。
いや。ダメだ。
親父が死んだくらいで店を立て直せるわけがない。
どうする。どうすればいい。

結局、店はあっけなく潰れた。

俺は今、アメリカにいる。
アメリカで呉服屋を始めることにしたからだ。日本では着物なんて着る人はほとんどいないが、こっちではアメリカに滞在する日本人のマダムたちが、パーティー、式典、コンサートなどのさまさまな場面で着物を着たがる。上客ばかりだ。
俺はアメリカで呉服屋を始めた初代となった。これから50年は続けていけるだろう。
俺は自分の手で成功を掴んだ。

まあ、親父の援助交際の話しを常連客に流したのは、俺だけどな。

8/4/2024, 12:06:08 PM