『どこまでも』
どこまでも、どこまでも空は青かった。
あの青が憎かった。
大嫌いだった。
だから、血のように、真っ赤に染めてやろうと、そう思っていたのに。
彼は、未だ、青かった。
「どうして、こんな事をしたんですか、先輩」
自分を慕ってくれる後輩が、青い志のまま、自分にそう問いかけた。
むず痒くなり、鼻で笑い飛ばす。
「分かってんだろ? 俺にとって大事なのは――正義より、金だったって事さ」
「そんな! そんな、先輩……!!」
彼の声がだんだんと涙声になっていく。
まったく、本当にとんだ甘ちゃんだ。
「撃たねぇの?」
「……撃てるわけ無いじゃないですか」
だんだんとこちらに向けられた銃が下がっていく。
それに声をかければ、元気なさ気な声でそう返された。
はぁ……。
「お前は、本当に……」
「?」
「いや、もういい。もういいや」
「せ、先輩?」
お前をこちら側に引きずり込みたかった。
あの青を、どうにか、別の色にしたかった。
「なぁ、お前もこっち側に来ないか?」
「……出来ません、先輩」
「だよな」
だから、もう、いいのだ。
「じゃあな」
「先輩っ!?」
俺は飛んだ。
追い詰められたビルの屋上から、身を投げた。
まるで紙飛行機を飛ばすように、雑に体を空中へと投げた。
銃を捨ててこちらに手を向けて助けようとする後輩の姿、もう遅い。
俺は青から逃げ切り、真っ赤に染まった。
俺は昔から青が大嫌いだった。
あーあ。お前を青に染めてやりたかった。
そんな俺が、真っ青な空の下で死ぬことになるなんてな。
だが、今だけはいい気分だった。
青いアイツが、本当に辛そうな顔をしていたから。
「お前は、こんなんに、なるなよ」
くく、と笑いを飛ばす。
そして俺は、やってる眠気に従って目を閉じた。
どこまでも、俺は悪人でしか、居られなかった訳だ。
おわり
10/12/2025, 9:16:37 PM