あお

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「雨が降りそう」
「洗濯物、しまっておかないとね」
「手伝う」
 そうは言っても、わたしが手伝う必要はなかった。彼の手際がよすぎる。
「朝から干して乾いてるから、畳むのを手伝ってくれないか?」
 三つある籠に詰まった洗濯物から、シャツを取り出す。お店のディスプレイのように、綺麗に畳んだ。我ながら上出来。
 わたしが自画自賛している間に、彼の手元には畳まれたシャツの山ができていた。
「家事はできるのに、なんで溜めちゃうのかなぁ」
「面倒だから、かな」
 申し訳なさそうに笑う彼の手元に、次々とシャツが置かれていく。
「溜めるから面倒になるんでしょ」
「そうだね。でも、溜め込むと君が手伝ってくれる」
「最初からアテにされてるんだ?」
「それもあるけど、二人でやったほうが楽しいだろう?」
 確かに、楽しそうに畳んでいる。口では面倒と言うが、その手は軽やかだ。
 こうして楽しい時間が過ごせるのなら、曇りも悪くない。そう思った矢先、窓から光が射し込んだ。
「外、晴れてる」
 わたしが指差すと、彼も窓越しに空を見上げた。
「君との細やかな時間を、天候がプレゼントしてくれたんだね」
 普段は無口な彼から出るキザな台詞に、どこか違和感を覚える。それだけじゃない。今日はなんだかおしゃべりだ。
「……もしかして、口説いてる?」
「それはどうだろうね」
「否定はしないんだ」
「否定してほしい?」
 そう言われたら、なにも言えなくなる。本音を伝えたら困らせるだろう。でも、質問に対して肯定したくもない。
「君の答えは沈黙か。かわいいね」
 彼のことを狡いと思うのに、胸は高鳴る一方だ。
 激しくなる鼓動を誤魔化すように、洗濯物に手を伸ばした。

3/23/2025, 4:31:58 PM