「あんた魔法が使えるんだな」
もう何度目かわからない言葉に、リュカはうんともすんともつかない返事でモゴモゴ誤魔化した。
「この間の暴風雨じゃえらく活躍したっていうじゃないか」
おかげでこっちの商売上がったりだけどな、本業が大工の指物師の言葉に毒はない。
「何でこんなところに来たんだ」
「あんなすごい魔法が使えるんだ、魔法学校に入れば良かったじゃないか」
「それとも落ちたのか」
「……普通そんなことズケズケ聞いてきますか?」
耐えきれなくなったリュカは嫌そうな顔をした。
「だって気になるだろ」
「……中等部、中学校まではちゃーんとフツーに魔法学校に在籍してましたよ」
ため息を吐き、やや投げやりな様子でリュカは口にした。
「……色んな人の期待を裏切って、失望させて……」
その時のことを思い出しているのか、リュカは目を細めた。やすりを握りしめていたことに気づき、慌てて手を開いた。ぐしゃぐしゃになったやすりを一生懸命平にしながら、
「それで、まあシンプルに居づらくなって逃げたんです。王都、王都から遠くに行きたくてこの学校に入ったんです」
王都じゃ家から通うことになるから、と言いかけたリュカは誤魔化した。
今回バレたのは魔法が使えることだけだ。興味があれば王都の魔法学校について色々調べられ、そこでの素行や親のことも芋蔓式に判明するのかもしれないが、今はまだ「少し異色な高校生」でいたかった。
「逃げたって良いじゃないか」
別に誰かの許しが欲しかったわけじゃない。誰の許可があろうとなかろうと、リュカはほとんど家出同然に飛び出したし、誰にも相談せずに退学したのを後悔したことはない。
(……肯定してもらえるって違うんだな)
5/31/2023, 9:45:30 AM