300字小説
最後の独りに幸せを
「おひさまのにおいがする~」
日に干しておいた布団に顔をうずめて笑う。パジャマ姿の娘の髪をくしけずり、私はゆるい三つ編みにまとめた。
「サア、ネルジガンデスヨ」
仰向けになった小さな身体に布団を掛けると、細い指が天井の天窓を指した。
「おほしさま! きれい!」
あの星の並びだけは、この星に人間があふれていた頃のままだ。
激しい気候変動が治まることを希望して、長い冷凍睡眠に入った人類。しかし、余りの長期に渡ったせいか、ライフサポートロボットの私が目覚めたとき、同時に目覚めたのは、この子だけだった。
「ダディ、子守唄、歌って」
「ハイハイ」
最後の独りになってしまった彼女のこれからに幸せを。祈りながら私は歌い出した。
お題「眠りにつく前に」
11/2/2023, 12:00:01 PM