茂久白果

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 声が聞こえる
 *ブロマンスです。


 地面を掴むスパイクの音と自分の荒い息遣いが、うるさいほどに脳内を締める。
 赤茶色のトラックを走る白いラインは、終わりなくどこまでも続いていく。
 カーブを曲がって、限界まで力を出し切る。前へ、苦しくてもただ、君の元へ。


「ナギ!」
 手を挙げて、俺の名前を呼ぶ。
 聞こえるのは君の声だけ。
「ハイッ」
 スタートを切った律の背中を追いかけて、その手にバトンをぐっと押し込む。
 数え切れないくらい練習したから、阿吽の呼吸でスムーズにバトンは渡る。

 速度を緩めてトラックから外れた瞬間、体に力が入らなくなって行く。
 こんなにも騒がしかったのかと思うほど、競技場内は喧騒に包まれていた。
 律がひとり、追い抜いて行く。湧き上がる歓声。

「行け! リツ!」
 届かなくても、声を振り絞った。

9/23/2024, 12:24:23 PM