ふとした瞬間
ふとした瞬間、死にたいと思うことがあった。そういう時期が昔あった。決して自殺願望があったとか、鬱であったとか、そういう訳ではない事は、はっきりと明記しておく。
ただ、難病と戦う人々のテレビ特集を見た時、私の寿命を分けてあげられたら、と思うとか、近所の誰々さんが亡くなったと聞いた時、悲しいと思うと同時に少し羨ましいと思うとか、そういう事であった。死にたい、というより、生きたくない、と言った方が正しい。生きたくても生きられない人からしたら、贅沢な悩みだろうけれど。
幸せではない訳では無い。ただ何かが足りない気がした。足りない何かをずっと探しているようだった。それが人なのか、物なのか、場所なのかは、分からなかった。そして、その何かを埋めるように、言葉へ救いを求めた。知らない事は減ったが、分からない事は増えていった。死とは救済だ。この憂き世を抜け出せる唯一の手段だ。厭世的な考えだと、自覚はしていた。
今は、やりたいことも見つかって、日々の楽しみもあって、前ほど死にたいとは思わなくなった。あの頃は目先の辛い事ごとに囚われて、本当に目をやるべき未来が見えなくなっていた。ただ、好きなこと、没頭できる事ができただけなのだが、自分は案外ちょろい奴だと思っている。
でも、今でもたまにふと、死にたいという言葉が頭をよぎる事がある。あの頃の名残か、それとも、習い性になってしまったか。本当に死にたい訳では、ないのだ。
死とはやはり救いなのだろうかと思う。そして、それはいずれ必ず訪れるものである。約束された終わりなのだ。この憂き世も結局いつかは終わるのだから、だったらほんの少しばかりは、楽しんでやろうかと、好きに生きてやろうかと、今ではそう思っている。
4/28/2025, 3:11:25 AM