題名『希望と未知の冒険』
世界は、いつも二つで出来ていると思う。
白は正義、黒は悪。
光は正義、暗闇は悪。
日差しは正義、影は悪。
晴れは正義、雨は悪。
じゃあ、私はきっと悪なのだろう。
誰にも魅せられない。魅せたくない。
そんな顔を見られたく無くて、前髪で隠しフードを被り、マスクをして、息がし辛い位背を曲げる。
いつも鏡に映るのは、顔の右側に沢山花が咲いた姿。
ずっと、小さい時から母にも、父にも、兄弟にも存在を否定され続けた。
私が過ごすのは、暗い、暗い、影の部屋で母が仕方無さそうに食べ物を持ってくる。
私だって、此れが当たり前だと思っていたから気に留め無かった。
時には自分を責めた。
私を見て、家族の顔色が悪くなる。
この顔に生まれた私のせい。
その度に『御免なさい、』と謝る。
欠点は分かっても、治し方が分からない。
そんな中、外に出る機会が有った。
私への訪問者。珍しい。
今日も、マスクをして、顔を隠して、背を丸める。
出ると、背が高く高価な服を身に纏った男性が立っているのが直ぐに分かった。
彼は、一通の手紙を私に渡して、微笑んだ。
『君の顔は美しい。春になれば、花の便りを伝えて、夏になれば、波を伝え、秋になれば、木の実を伝える、冬になれば、雪と夢を共に運んで来る。君は特別な人だ。』
彼はそう言った。
おかしな冗談だろうか。それとも、揶揄いだろう。
『すまないね、もし気が向いたら私が営業する見世物小屋に来てみなさい。きっと、君の人生に希望と未知の冒険をお届けするはずさ。君の綺麗な花と同じでね。』
彼はそう言い消えて行った。
始めは、放っておこうと思った。
でも、"希望と未知の冒険"。其れが気になった。
家族が寝静まった夜、荷物を纏めて走り出した。
言われた通り、見世物小屋に来るとあの男性が微笑んでいた。
『君なら来てくれると思っていた。さぁ、最高のshowをお届けしよう。希望と未知の冒険を────、』
私は足を踏み出した。
此処では無い。
何処かも分からない。
何処かへ。
2023.6.27 【ここではないどこか】
6/27/2023, 12:08:21 PM