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 夏帆ちゃんの指先は、まるで揺れる羽根みたい。キーボードを叩く手は、鳥が今にも飛び立ちそうな勢いだ。

「ぐうっ……また、負けた」
 ノートパソコンの前で突っ伏した私を見た夏帆ちゃんは、あははと笑った。

 画面に映っているのは『寿司打』というタイピングゲーム。回転寿司のお皿が行ってしまう前に文字を打ち込み、速さを競うゲームである。

「ねえ、何でそんなに速いの?」
「練習したからだよ。小学校のときから、結構やってたもん」
「ふーん」
 私は椅子の背もたれに寄りかかって、ポケットからスマホを出した。RPGのゲームでもしようかと親指をスマホに滑らせかけて、ふと気付く。

「ねえ。夏帆ちゃんは何で、スマホ持ち歩いてないの?」
 夏帆ちゃんがスマホをいじっているところを見たことがない。LINEは返ってくる。けれど、すごく時間が経ってから。なのに、夏帆ちゃんは怪訝な表情でカバンの底をゴソゴソ掻き回して、スマホを取り出した。
「持ち歩いてるよ、ほら」
「そんなところにあったんだ。全然使ってないじゃん」
「使ってるもん。LINEとか」
 LINEだけだろう。
 夏帆ちゃんのかすれた傷だらけのスマホは、もはや、飽きて置き去りにされた玩具に見える。

「ゲームとかやってないの?」
「やってるよ、パソコンで」
「えー、スマホでやる方が便利じゃない?」
「やだー、スマホなんてまどろっこしいもん」
 そのとき、スマホに置いた親指が少し重くなった。スマホは、小さい画面と親指だけのプライベート空間。確かに、ここからじゃどこにも飛び立てない気がする。

「もうすぐ受験だね」
 頬に肘をついた夏帆ちゃんが呟く。
 夏帆ちゃんはゲームクリエイターになりたいと言っていた。私にはまだ何の展望もない。窓から電車のガタンゴトンという音が聞こえる。

 夏帆ちゃんの視線の方向を追う。もしかしたら、夏帆ちゃんの行き先が見えるかもしれない。
 そう思ったけれど、赤く染まった夕焼け空には薄っすらとした雲が流れているだけで、その先には何があるかわかるはずもない。

 私はスマホをポケットにしまって、雲と電車が進むのをぼんやりと眺めた。

10/26/2025, 1:38:16 AM